第07話
「ちょっと、三倉さん。抜かれてもすぐにあきらめない」 勝ち組伊沢は、物足りなさそうな顔で容赦なく追い打ちをかけてきた。 「そうはいうけどなぁ、25になった瞬間から体力ってのはガタ落ちするもんなんだ」 俺はサクッと罰ゲームを終わらせてから、そういい返してやった。 「瞬間からって……体力は徐々に落ちていくのであって、急に落ちたりはしませんよ」 「俺は君と違ってデジタル世代ですから。カチッといくんだ、カチッと」 「またそんな屁理屈こねちゃって……マンマークが強かった三倉さんはどこに行ったんですか?」 「ここにいるじゃん」 俺は自分を指して胸を張る。 伊沢は「あー、そうですね」と言ってから、攻め側の列に戻っていった。まだ純粋な学生と、日に日にずる賢さを覚えていく社会人の差だろうか。舌戦はこちらが制したようだった。 プレイで負けて口で勝つ。うわ、最悪だ、俺。思わず苦笑いが出てしまう。 けど、そんなことはどうでもいい。だって今の俺、全然仕事のことを考えていない。気づいてみたら、もう嫌なことはすっかり洗い流されている。まだ完全にネクラ人間ってわけではないようだ。今日は朝から曇り空。今も星はひとつすら見えないが、グラウンドの年老いた小さな照明は、いつものように優しく俺たちを包んでいる。とりあえず、今はサッカーだ。俺は、守備側の最後尾まで軽く走っていった。 1対1が終わると、次はミニゲームだ。1チーム5、6人でキーパーはなし。さっきと同じように、パイロンでつくったゴールに2回入れれば勝ちとなる。あとは練習終了までこれをぶっ続け。時間の大半を費やしている。グラウンドにサッカーゴールはちゃんとあるし、人数も今いるメンバーをふたつに分ければ8対8。より実戦に近いゲームもできそうだが、うちはあくまでミニゲーム。キーパーをやりたがる人間がいないから、というのもあるんだろうけど、基本的に小せぇやつらなんだ、俺たちは。