第30話
唯華と一度別れてから、急いで身なりを整えて、彼女を迎えにいく。
ジムニーに唯華を乗せる。
「どこか行きたいところある?」
「海に行きたい」
「メシはもう食べた?」
「コンビニに寄って。適当に買うから」
そんなわけで、唯華のアパートから一番近いセブンイレブンに寄って、サンドイッチやおにぎりといった軽食と、お菓子、飲み物を買って、海のほうへ車を走らせている。
唯華は、買ったサンドイッチを静かに頬張っている。不機嫌を噛み殺している。ただ、そうしながらも、運転している俺に、おにぎりを袋から出して手渡したり、チョコやポテトチップスを食べさせたりしてくれる。
ささやかな気遣い。
それは、互いに言葉がない俺たちをかろうじてつなぎ止めている。
俺は、沈黙が煩わしくならないように、カーオーディオの電源を入れた。
日本ではあまり馴染みがない、イングランドの元プロサッカー選手が立ち上げたバンドの曲が流れてきた。