中小IT企業のSEが、会社とサッカーチームと恋人との時間を行き来する、日常世界を描いた小説です

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第19話

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 いいね、若いね。さすが20代前半。この調子なら、おじさんの出番は少なくなりそうだな。
 俺は気を緩める。まだ2点差。そうするにはまだ早いスコアなんだろうけど、緩めちゃう。いや、だってさ、もうぜってー勝ち試合じゃん。ボール来ねぇよ。何ていうか、開票が始まった直後に、出口調査の結果から当選確実が導き出された立候補者の気分? あ、いや、それとはちょっと違うのか。例えるなら、えーっと……
「キーパー、まだ試合は終わってないぞ! 気ぃ抜かない!」
 味方ベンチから意地悪ばあさんのヤジが飛んできた。
 んぁ? うっせーな、心配しなくても、この雰囲気ならあと何点か取れる。ばあさんは縁側でお茶でも啜りながらミックのドリブルショーでも見てりゃいーんだよ。
 って言う代わりに、軽く手を挙げて応じてみせる。ついでに、ピッチに目を向けて「この調子でもう1点取ろう!」と声をかける大サービス。くっそ、正論だから腹が立つ。根が素直ないい子ちゃんの俺は、正論には従ってしまう性格なのだ。実は尻に敷かれている。多くのチームメイトのその見解が正しいわけでは、決してない。いや、ホントにね。
「みんな、取れるだけ取っておこう!」
 唯華がデカい声を出す。パタパタと点が入ったことで、テンションが上がったようだ。
「おぉ」とピッチにいるメンバーも声を合わせた。

相原ユタカの“年収3万円!プロサッカー選手放浪記”バングラディシュ編

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