第18話
試合はキックオフの時点で人数的優位になっていた俺たちクロワッサンズが、相手陣内でプレーし続ける展開になった。 ミックが好き放題にドリブル突破する。ほとんど一人で相手を翻弄している。今日の彼は調子がいいようだ。だが、相手もたった一人にやられ過ぎ。試合開始の時点で数的不利を作ってしまったことが、モチベーション低下にもつながったのだろうか。人任せの姿勢が、何となく見て取れる。 あまりにも思いどおりにさせてもらえるからだろう。周りの味方がフリーになっていても、ミックはなかなかパスを出さない。出しても少し動いてからボールを要求して、またドリブルし始める。彼はドリブラーではあるが、そういう選手にありがちなエゴイストではない。チームメイトにも気を配れるタイプだ。ここまで個人技に頼る姿は、結構珍しい。 相手3人が並んで、ミックのドリブルコースを塞ぐ。これだとさすがに突破は無理だ。ミックは後ろにいた伊沢にボールを預ける。そして、右サイドに開いてから、パスを要求する。まだボールを奪われる気配はまったくない。ミックに任せて全然問題ない。伊沢もドリブルしたがるタイプ。自分で持ち込もうと思わなければ、だが。 伊沢はすぐに右へはたく。そういえば伊沢は、根はいいやつだった。 ボールを受けたミックは、再び単身突破を試みる。1人、2人を抜き、3人目を抜ききる前に右足を振り抜いた。 GOAL。 ミックの右足から放たれたボールは、きれいにゴール左隅に突き刺さった。 「ナイッシュー」 ミックを中心に広がる歓喜の輪。だが、ゴールを決めた本人は、それほど嬉しそうな様子ではない。チーム内得点王で、リーグ全体で見ても、ランキング2位だったか。このぐらいの相手なら、点を取って当たり前。そう言わんばかりに、駆け寄ってきた味方と軽くタッチを交わすだけだった。 ミックは、自陣のセンターサークルのすぐ外に立つ。さすがミック、やっぱりミック。これはキックオフと同時にダッシュ＆ボール奪取作戦だ。スピード自慢の選手、それも絶対的な支配力を見せつけた選手がやれば、相手はビビる。えげつない。でも、頼もしい。ボールの動きに合わせて走るわけだから、スタミナには厳しいのだが、今のミックの勢いは尊重しなければ。疲れたら、適度にサボればいい。ミックはサボり方も結構うまいし、問題ないはずだ。 相手のボールで試合は再開される。後ろへ下げられたボールを、ミックは猛然と追う。ディフェンスラインまで下げられたところで、ボールを奪い取る。で、ゴールへ向かってドリブル。シュート。 GOAL。 今度はゴール右隅に突き刺さった。追加点を奪うことには、実にあっさりと成功してしまった。 ミックは、自分が蹴り入れたボールを抱えてセンターサークルへ走る。普通は負けているチームがやることなのだが、まだまだ点を取ってやるということか。
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