中小IT企業のSEが、会社とサッカーチームと恋人との時間を行き来する、日常世界を描いた小説です

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第60話

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「今の私がこんなこと言っても、あまり信じてもらえないかもしれないけど、私もハルちゃんのこと好きだよ」
「そっか。ありがとう」
 だが、それならそれでいい。時間をかけて薄めていけばいい……いや、それを期待するのもよくないか。薄まりもしないのかもしれない。でも、そうだったとして、それは大きな問題か? 小さな衝突や行き違いが何度もあって、その度に嫌な思いをして疲れるのだろうけれど、それだけのこと。また『普通』は、意外とあっさりやってくる。こう思う俺は、鈍感なのか? 考えが浅いのか? まぁ、両方だったとしても、それこそ大した問題ではない。
「そういえば、今日の飲み会では、ハルちゃんの話は出なかったの?」
 唯華は、飲み会の話題に戻した。今日の真剣な話し合いは、終わりにしていいようだった。
「俺の話?」
「うん、他の人の話は聞いたけど、ハルちゃんがどう言われたとか、どうされたとかは聞いてない」
「そうだな……たしかに、何も話してない気がする」
「どんなふうに言われたりしたの? 聞きたい」
「この前の試合の作戦は、俺中心で立てたって話になって、由雄に頭を下げられた。これからも勝つための策をくださいって」
「ハルちゃんはどう応えたの?」
「作戦1。ハーフタイムでは水を飲み過ぎない。腹を壊さないように警戒する」
「何それ。作戦でも何でもないじゃん」
「そうだよ。ただの心がけ」
「心がけでもないよ。だって、普通ないじゃん、そんなこと」
「でも、あってしまったからなぁ。試合で勝つことを考えるなら、ハーフタイム後にウンコマンになってもらっては困るのです」
「まぁ、そりゃそうだけどね」
 反応に困った唯華は、言葉を濁した。
「ハルちゃんが話題になったのはそれだけ?」
「うん、それぐらいだったと思う」
「そっか、それだけか」
「どうしてそんなこと聞く?」
「ほら、この前の試合で、ハルちゃん、伊沢くんにきれいなパスを出したじゃん。相手の間をスルスルっと抜けていったパスだったんだけど……」
「あぁ……どのことを言ってるのか、多分わかったと思う。そんなのもあったな。でも、それがどうかしたのか?」
「それって、何も話題にならなかったのかなって思ったの」
「別に話題にはならなかったよ。あれが点につながってたらまた違ったかもしれないけど、やっぱりゴールシーンのほうがインパクトあるよ」
「そんなもんですかぁ」
 唯華は、少し不満そうに言った。

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