中小IT企業のSEが、会社とサッカーチームと恋人との時間を行き来する、日常世界を描いた小説です

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第56話

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「では、野島先生、あれは我々の実力であり、まぐれではなかったと考えてよろしいのでしょうか?」
 由雄が、野島にビールを注いでから、畏まった言葉遣いで聞く。上目遣いで、相手の様子を伺うように話す由雄。営業の仕事をしているだけあって、接待をする機会も多いのだろう。手慣れた感がある。
「運もあったけど、決してまぐれじゃない」
「では、実力」
「そう言われると、ちょっと違う。実力がないから、それを補う対策を考えて、全員でやった結果、とでも言えばいいのかな」
「ほぅ……ということは、相手に合った策を考えて試合に臨めば、実力以上の力を出せるというわけですな?」
「まぁ……そう言われれば、そうなるのかもな」
「今回、我々に策を提示くださった方というと……」
「全体的な方針は三倉だったよな。後半になって、狩野が少し手を入れたけど、ぶっちゃけ、結果的にはあまり効果はなかった。というわけで、三倉先生にお願いしてみてくれ」
 あ、野島からキラーパスが出された。話は変な方向に進み、由雄は俺のほうを向いた。
「三倉先生、今後ともわたくしどもに、試合で勝つための策をご提示ください。お願いします!」
 由雄は、わざとらしく深々と頭を下げる。
「お願いしまーす」と伊沢も悪のりしてくる。
 すると、「お願いしまーす」がチーム全体に連鎖していく。何だか応えづらい、アウェーの空気を作られる。
 だが、そんなものに潰されるようなら、サッカー選手としてやっていけない。
「わかりました。では、作戦1。ハーフタイムでは水を飲み過ぎない。腹を壊さないように警戒する」
 由雄に、野島から渡されたキラーパスを返す。
「そういえば、そうだった。おい、ウンコマン、お前、勝手に抜けてんじゃねーよ」
 梅木が、由雄に絡み始める。
 アルコールが潤滑油となった会話のパスは、すこぶる滑らかに流れていた。

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