中小IT企業のSEが、会社とサッカーチームと恋人との時間を行き来する、日常世界を描いた小説です

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第54話

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 翌週の土曜日の夜。
 佐賀岡大学から近い飲食街にある焼肉屋で、俺たちはくだけた雰囲気を楽しんでいた。
 黎明大学との試合を最後に、今季の佐賀岡市市民リーグの全日程が終了した。
 今日は、その慰労会兼反省会兼これから始まるフットサルシーズンに向けての決起会兼小野塚さんとナンの歓迎会という名目で、焼肉を摘まみながら、酒を酌み交わしている。
「あれは、キーパーの位置を見て狙ってた! ぜってー狙ってた!」
「ウソ言わないでくださいよ。だって、ゴールに入ったの見て、思いきり固まってたじゃないですか」
 梅木と伊沢が、黎明大学戦の2点目のゴールシーンについて、熱くなって検証している。
「あぁ、あれ? 演出、演出。意外性あるシュートを決めた後の、ゴールパフォーマンスだって。うまく表現してただろ?」
「そんなに言うなら、多数決取ってみましょうよ。梅木さんのゴールが、狙ったシュートだったと思う人、手を挙げてください」
 お約束のように、誰も手を挙げない。
「じゃ、狙ってなかったと思う人は、手を挙げてください」
 全員が一斉に手を挙げる。
「梅木さん、これが現実です」
 伊沢は、梅木の肩を叩いた。
「冷てぇやつらだな……そんなやつは充だけだと思ってたぜ」
 梅木は、お猪口に日本酒を注いで、一気に飲んでみせた。
 梅木に名前を出された、一番のいじり役は、この場にいない。充の相方、真田の姿もない。2人とも、別に用事があるらしく欠席。2人揃ってというところが、限りなく怪しい。「冷てぇやつ」というのは、多分、その辺りも指している。いじられてこそ輝きを放つ梅木は、充がいなくて寂しいのだ。そして、年齢イコール彼女いない歴の梅木には、とてつもなく羨ましく思えてしまうのだ。
「それにしても、惜しかったよなぁ、その試合」
 ナッシーは、ため息混じりにそう言った。

居酒屋ぼったくり

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