中小IT企業のSEが、会社とサッカーチームと恋人との時間を行き来する、日常世界を描いた小説です

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第47話

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 野島が「大丈夫か?」と近寄ってくる。俺は「大丈夫」と返して立ち上がる。実際、今のプレーでどこか痛めたわけではない。少しイラッとはしたが。
 だが、そのイライラ度合いは、おそらく相手のほうが上だ。今のファウルも、前半のうちに同点にはしたものの、思うようにプレーできていないという気持ちの表れだろう。後半も攻める気ゼロで、まとなサッカーをやろうとしない俺たちに、怒ってもいるのかもしれない。
 だが、もしそうだとしたら、そんな俺たちを崩せない相手も悪い。黎明大学の面々の個人技は、俺たちと比べると高い。前半から、ドリブル突破など、個人技を披露されて抜かれることは多々ある。だから、俺たちは人数をかけて守る必要があるのだが、決して守りにくさは感じない。なぜなら、次のプレーが読みやすいからだ。
 7番と8番と10番。攻撃に関しては、この3人に依存しているように思える。ほかのメンバーも、ボールに絡まないわけではないが、相手を崩そうという意図がない。ボールを経由する。そのタスクをただ淡々とこなしているだけだ。このリーグに出ているのは、控えや2軍が中心。その噂どおり、背番号を見ても、7番8番10番以外は、本来は主力ではないメンバーなのだろう。いつも3人の動きを気にしているのが、見ていて伝わってくる。もっと彼らが意思を持ってプレーしてくると、こちらとしては面倒なのだが、幸いなことにも大人しくしてくれている。
 そして、攻撃のときには、いつも顔を出してくる、7番と8番だ。彼らは典型的なサイドハーフで、スピードがあって、ドリブル突破が好きみたいだ。それによって、前半から危ない場面を何度も作られてはいるが、お世辞にも創造性豊かなプレーヤーとは言えない。足技で翻弄されることはあっても、それだけだ。人数をかければ、何とか抑えられる。
 攻撃のリズムに変化をつける、いわゆる司令塔が10番なのだが、伊沢が何とか存在を消してくれている。
 結果として、相手の攻撃は、連動性と意外性に欠けたものとなっている。これらは、相手のディフェンスを崩す上で、足元の技術よりずっと重要なのだ。
 だから、このままの展開が続くのであれば、こちらが相手に攻められ続ける圧力に対して、体力的、精神的に屈しなければ、何とかなるんだよな。まぁ、技術的にも体力的にも劣っている格下の俺たちには、それが難しいんだけどさ。スタミナの部分を補える、交代選手もいないし。

90歳の昔話ではない。 古今東西サッカークロニクル

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