中小IT企業のSEが、会社とサッカーチームと恋人との時間を行き来する、日常世界を描いた小説です

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第44話

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 ピ、ピー。
 前半終了のホイッスルが吹かれた。
 ハーフタイムとなり、俺たちはベンチへと向かう。チームの雰囲気は沈んではいないが、決して明るくもない。
 スコアは1対1。俺たちは、相手に追いつかれてしまっている。
 先制してからは、より一層押し込まれる時間帯が続いた。それでも何とか堪えていたのだが、ペナルティエリアのすぐ外で、伊沢がマークしていた10番を倒してしまい、フリーキックを与えてしまう。それを10番に、直接ゴールへ叩き込まれしまったのだ。
「すみません、せっかく先に点を取ったのに」
 ベンチに戻ると、伊沢は周りに対して頭を下げる。失点直後にも、同じことを言っていた。必要以上に自責の念にかられているようだ。
「気にするな。仕方ねぇよ。むしろ、伊沢が10番を自由させてないから、1失点で済んでるんだ。自信持てよ」
 俺は、伊沢に声をかける。別に慰めようとしているわけではなく、事実を言っている。伊沢に限らず、今日は全員が高い集中力を保ってプレーしていると思う。実力以上の力を出している。その中でミスが出たとしても、責めることはできない。
 ナッシーに目を向けてみる。ぐったりとしている姿から、体力的に消耗していることがはっきりわかる。だが、それは彼に限ったことではない。ナッシーの消耗度合いは特に目立つが、俺も含めて、全体的に疲弊している感がある。無理に相手を追いかけないという、チームの方針ではあった。しかし、圧力をかけられ続けている状況は、ボディーブローのように効いてきている。
 それに対して、黎明大学の面々は、相手ベンチの様子を確認する限り、まだピンピンしている。そして、俺たちと違い、交代選手も充実している。まだまだ余力が残っている。
 ちょっと苦しい状況だな……。

岡山劇場 声は届き、やがて力となる。

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