中小IT企業のSEが、会社とサッカーチームと恋人との時間を行き来する、日常世界を描いた小説です

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第42話

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「一人行ったぞ!」
 相手も声をかけて、ボールを追っているディフェンダー、16番に警戒を促す。だが、その時点で小野塚さんは、彼のすぐそばまで距離を詰めていた。目立ってなかったけど、結構、足速いじゃん。
 後ろを振り返った16番は、小野塚さんから逃げるように、サイドラインのほうへドリブルでボールを運ぶ。俺たちのように、何も考えずにポンポンとボールを蹴るのではなく、あくまでも味方につなぐことを意識している。
 だが、16番がボールを運んだところには、ミックも小野塚さんに呼応する形で走っていた。
 ミックはボールを奪う。この試合の中では、ここまで一度もやっていなかった、前線からの連動した守備。攻める姿勢をまったく見せずに、相手の油断を引き出すという、他力本願の目論見が、見事にハマった瞬間だった。
 左サイドでボールを奪ったミックは、斜め前に大きくボールを蹴り出して、相手ゴールに向かって一気に加速する。相手ディフェンス陣も追いかけてくるが、届かない。
 ミックは、キーパーと1対1となる。ゴールに流し込むように、グラウンダーのシュートを放つ。
 相手キーパーは、足を伸ばしてボールに触れる。弾かれたボールは、戻ってきた相手ディフェンス陣の間を抜けて、フィールドを転がる。
 その先には、ナッシーが走っていた。今日は前線からの守備で忙しいはずの彼だが、しっかりとゴール前に詰めていた。
 ノーマークのナッシーは、勢いそのままでゴールに向かってボールを蹴る。
 ミックのシュートを防いで、体勢を崩していた相手キーパーは、ただボールを見送るだけだった。
 GOAL。
 こちらを振り向いたナッシーは、高らかと両拳を突き上げた。

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