中小IT企業のSEが、会社とサッカーチームと恋人との時間を行き来する、日常世界を描いた小説です

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第39話

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 黎明大学は、俺たちが前からプレスをかけにいかないと判断したようで、人数をかけて俺たちの陣内に侵入してきた。
 ナッシーが、ボールを持った相手のボランチ、18番に向かう。
 フォワード2人の役割は、ハーフラインからペナルティエリアの間にあるボールを追いかけることだ。今日に限っては、ゴールを奪うことではない。実質、前線のディフェンダーだ。
 守りを固めるため。もちろん、それが最大の目的。ただ、これにはもう一つ目的というか、狙いがある。それは相手のカウンターへの警戒を解くことだ。
 黎明大学の戦力は、このリーグでは頭ひとつ、いや二つぐらい抜けている。結果、昨年から今まで全勝。このリーグでは、攻め込む時間が長い試合しかやっていない。勝つこと、攻めることが当たり前。そんな彼らに、最前線のプレーヤーが下がって守備をする姿を見せてやる。自分たちを恐れて守り一辺倒になっていると錯覚させる。イケイケの若者たちの中に、一発を狙える隙が生まれる……と、おじさんは期待している。はい、この苦し紛れの奇策もどき、発案者は俺です。
 ナッシーは18番にプレッシャーをかけるが、近づく前にパスを出される。パスを受けた右サイドの7番に対して、由雄が向かう。
 7番は足元のボールをまたいで、抜きにかかる素振りを見せる。対峙した由雄は、足を出さずに腰を落として様子を見ている。
 そこへナッシーも向かう。2対1の状況を作り出す。
 7番は、ボールを後ろへ戻す。ボールは、そのままディフェンスラインまで戻される。
 今度は、ロングボールが放り込まれてきた。
 190cm以上あるだろうか、一際背の高い相手のフォワード、15番が頭で落として、ボールはエースの10番に渡る。 彼には、伊沢がしっかりついている。

カメルーンがやってきた中津江村長奮戦記 (編集会議ブックス)

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