中小IT企業のSEが、会社とサッカーチームと恋人との時間を行き来する、日常世界を描いた小説です

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第37話

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 ピッ。
 チーム内で十分に会話を交わし、ウォーミングアップもいい感じでこなしたところで、フィールド上での整列を促すホイッスルが吹かれた。
「それじゃ、行きましょう」
 伊沢の声に、全員が「おぉ」と反応する。青いユニフォームを身にまとい、クロワッサンズという軍隊の兵士となって、フィールドに向かって行進する。
 その途中、ベンチのほうへ目を向けてみる。誰もいない。唯華が来るのは、たいてい試合の前半が終わるころなのだが、先週は試合開始前に姿を見せていた。今日は少しだけ気になってしまった。
 黎明大学のキックオフで試合が始まった。
 彼らは、自陣へボールを戻し、俺たちの出方をうかがうようにパスを回し始める。
 俺たちは、誰も相手陣内に入らない。ハーフラインを境に、クロワッサンズの青と、黎明大学の白と黒の縦じまが、きれいに分かれている。
 チームの決めごとで、ハーフラインを越えるまでは、ボールを奪いに行かないこととなっている。守備を固めてカウンター。野島が話していたように、これが基本方針だ。先に失点して、ゴールが必要な展開になったとしても、方針は変更しない。最初から最後まで守りの姿勢を貫き通す。今日の俺たちには、交代選手がいない。下手にボールを追いかけてしまうと、無駄にスタミナを消耗してしまう。その辺りも考慮しなければならない。リードを奪われたからといって、焦って前がかりになったり、無理に運動量を増やしてみたところで、傷口は深くなるだけなのだ。

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