中小IT企業のSEが、会社とサッカーチームと恋人との時間を行き来する、日常世界を描いた小説です

トップページへ

第36話

前へ  次へ

「守備に比重を置いてボールを奪えたら速攻、しかないよな」
 伊沢が何か言う前に、野島が応えた。
 伊沢も「そうですね」と頷く。彼の頭の中で思い描いていたのは、間違いなく真っ向勝負を挑んで勝つというシナリオだ。だから、水曜日の練習ではパスゲームなんてやったわけだし、今の「そうですね」のときも、苦虫を噛み潰したような表情になっていた。
 だが、現実問題、そこにこだわっていられる状況ではない。俺たちは弱い。相手とはまともに張り合えない。それを自覚したゲームプランを立てなければならない。それこそ、試合に勝つことを意識するのなら。
「今日は俺がキーパーやるよ。今日は経験者がやったほうがいいでしょ?」
 充が伊沢に申し出た。
「すみません、お願いします」
 伊沢もそれを受け入れる。充がフィールドプレーヤーから外れると、攻撃面ではマイナスになるが、今の状況では最善の選択だ。
 他のメンバーも、パラパラと集まってきた。そして、曇り空の下の作戦会議に参加し、全体的な方向性、自分の役割、決めごとを確認する。雲の隙間から、わずかに差し込む光の場所を見出だす。
 最初はどうなることかと思ったが、今のこの雰囲気、決して悪いものではない。幸か不幸か、不利な状況が、やるべきことを明確にして、チームとして一枚岩となるための働きかけをしている。
 あ、「普段からそうしろよ」とかいうツッコミはいらないからね。わかっている。わかっているけど、俺たちみたいな気まぐれチームには難しい芸当なんだ。

最後のロッカールーム 完全燃焼 全国高校サッカー選手権大会敗戦直後に監督から選手たちに贈られた言葉

前へ  次へ

inserted by FC2 system