中小IT企業のSEが、会社とサッカーチームと恋人との時間を行き来する、日常世界を描いた小説です

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第34話

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 佐賀岡市市民リーグの最終節の日曜日を向かえた。
 このリーグには、昇格もなければ降格もない。最終順位が3位以内になれば、このリーグのスポンサーになっている、焼肉屋の食事券がもらえるぐらいだ。
 俺たちクロワッサンズは、前節が終了した時点で、一つ順位を上げてリーグ3位。食事券ゲットに、手が届く位置にはいる。まぁ、そんなに気持ちが昂ぶる理由にはならないけどさ。
 今日の試合が終わると、今シーズンのサッカーは終わる。といっても、今年のチーム活動が終わるわけではない。今度はフットサルのシーズンが始まる。活動拠点が市内の小学校の体育館に移り、ボールが一回り小さくなるが、変化はそのぐらいだ。ボールを追いかけること。そのこと自体に、終わりはない。
 というわけで、この試合が俺たちにもたらすものは何もない。失うものも何もない。ただ、ほんのちょっと、これまでと比べて相手のレベルが高いというだけだ。
 黎明大学サッカー部――県の代表として、天皇杯に出場するぐらいの強豪だ。去年対戦したときは、0対4で惨敗している。色々と都合のいい条件が重ならないと、勝利することは難しい相手だ。
 俺が試合会場となる黎明大学のグラウンドに着いた頃には、彼らは20人ほどで列を作って、グラウンドの周囲をジョギングしていた。趣味で気楽にボールを蹴っている俺たちとは違う、硬くて整った雰囲気を発していた。
 クロワッサンズはというと、伊沢と充と野島が、グラウンドの隅にレジャーシートを敷いて、チームの占有スペースを確保しているところだった。
 素晴らしい。格下のチームが、準備の段階から見事に遅れを取っている。

悪者見参―ユーゴスラビアサッカー戦記 (集英社文庫)

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