中小IT企業のSEが、会社とサッカーチームと恋人との時間を行き来する、日常世界を描いた小説です

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第25話

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 少し肌寒くなってきた秋風のフィールド。
 チームの練習が始まり、パス練、1対1が終わった。
 チーム全体に、伊沢の不機嫌が何となく蔓延しているからか、チーム内の雰囲気が硬い気がする。練習の中に、緊張感がある。
 クロワッサンズは、試合に勝つことを最優先するチームではない。もちろん、試合になれば勝つことを考えるが、楽しくプレイすることが第一だ。だから、この緊張感というのは、俺たちには余計なものだ。
 まぁ、俺個人が、練習を黙って眺めている唯華に、ちょっとした隔たりを感じているから、勝手にそういう気がしているだけなのかもしれないが。
「次はパスゲームをしましょう」
 伊沢は、チーム全体に向けて、そう声をかけた。
「この前の試合は大量得点で勝ちましたが、ミックの個人技ばかりで、チームワークで崩した場面は、ほとんどなかったと思います。次は首位の黎明大学です。この間のようにはいきません。パスを出したら、スペースに走る。今日はこの動きをしっかり確認しておきましょう」
 チームの空気がいまいちよくない原因は、やっぱり伊沢だな。うん、確定。楽しさや遊び心を拒絶したストイックな口調は、チームに沈黙しか許さなかった。
 パスゲームとは、言ってみるならば、ゴールのないサッカーだ。5〜6人でチームをつくる。これはいつも練習でやっている、ミニゲームと変わらない。ただ、ゴールがないから点数も入らない。もちろん、勝ち負けもない。相手にボールを取らないように、自軍の中でひたすらパスを回す。そんな練習だ。
 俺は、あまり好きじゃない。だって、ゴールがないんだぜ。目標と終わりがない。そんなフィールドの中で、パス回しを延々と続けなければならないような感じが、好きになれないんだよな。まぁ、これは俺個人の感覚的な捉え方なんだろうけど、やっていて楽しいのは、普通にゴールがあるゲームのはず。少なくともクロワッサンズの面々にとっては。
 今日の参加人数は12人。6人の2チームに別れた俺たちは、パラパラとフィールドに散らばった。

オレもサッカー「海外組」になるんだ!!!

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