中小IT企業のSEが、会社とサッカーチームと恋人との時間を行き来する、日常世界を描いた小説です

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第21話

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 クロワッサンズは試合が終わったら解散となり、午後からは唯華と過ごしていた。
 適当に隣町のショッピングモールをぶらついて、時間をつぶす。日が暮れてきたら、適当なファミレスに入って、何気ない話をしながら空腹を満たす。
 笑い声が多かったショッピングモールとファミレスには、多分、適度な幸せが散らばっていた。それらを拾い集めてから見上げたところにある夜空は、名も知らない星たちによって、適度に彩られている。
 ファミレスを出た俺たちは、デートの終わりに向けて、ジムニーに乗って走り始めた。
「いやー、今日はホント気分いいわー」
 信号待ちになったところで、助手席に座っている唯華は、声を弾ませた。
「お前、まだ言うかそれ」
「でも、文句言ってるわけじゃないし、というか喜んでるんだから、聞いてて嫌じゃないでしょ?」
「まぁ、そうだけどさ」
「じゃあ、いいじゃない。今日はホント気分いいわー」
 同じことを何度も聞かされて若干辟易させられるが、今日の唯華は笑顔を絶やさない。
 これが勝つということなのか。ふとそう思った。
 草サッカーは楽しむことが主な目的で、勝つ負けるは二の次だ。もちろん、やる以上は勝つほうがいい。けれど、そのことが大きな意味を持つわけではない。少なくとも、俺にとっては。
 そうなんだけれども、唯華は今それを否定している。大勝だったからこそ、そのことがはっきり伝わってくる。多分一時的なのだろうが、勝つことの意味を少し考えさせられる。
「ぬーっすんだジムニーではぁしりだすっ、行くっ先もぉ、わかぁらぬままぁ、くらぁい夜の戸張ぃの、なかぁへー」
 ご機嫌の唯華は歌い始めたが、はっきり言って彼女は音痴だ。耳障り以外の何物にもならない。
「中古だけど、盗んではねーよ。それと、行き先は峠道沿いにあるいつものラブホだろ」
 だから、軽くツッコミを入れて、尾崎豊のカラオケを強制終了する方向へ持っていく。
「あー、そうでしたね。夢も希望もないやつね。ていうかさ、これから抱く女をそっちのけで、考えごとなんてしないでよ」
「え、そんなふうに見えた?」
「うん、思いきり」
 唯華は機嫌よさそうにしていながらも、しっかり俺を監視していたらしかった。

十七歳の地図

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