中小IT企業のSEが、会社とサッカーチームと恋人との時間を行き来する、日常世界を描いた小説です

トップページへ 

第17話

前へ  次へ

 チームの列で最後尾だった自分と向かい合う相手がいない。相手の人数が一人少ない。念のためもう一度数えてみるが、やっぱり10人しかいない。
 クロワッサンズは3人のサブもいる状態だが、相手は試合をするための人数も揃えられなかったようだった。
 エルフシュリットというのは、何語かは忘れたが、たしか11の足音という意味だったはずだ。これは以前に遊んだことのある、プロサッカークラブの経営シミュレーションゲームで、自分のチーム名となる候補のひとつだった。数ある候補の中から、俺もこのチーム名を選んでプレーしていた。だから覚えている。
 それをそのまま使うなんて、安直なチーム名だよな。まぁ、元フランス代表のミシェル・プラティニを崇拝していたという、チーム設立当時の代表が、フランスと言えばクロワッサン、という流れで名付けられたクロワッサンズも、十分安直だけどね。ちなみに、チームカラーが青なのも、フランス代表のユニフォームの色だから、らしい。
 ちょっと余談になってしまったな。とりあえず、相手チームの11の足音は、試合前から崩れてしまったわけだが、ルール上は問題ない。サッカーはチームに7人以上いれば、試合は成立する。このリーグも例外ではない。これは草サッカー。こんなことも、ありえてしまうのだ。
「これからクロワッサンズさんとエルフシュリットさんの試合を始めます。両チーム代表、じゃんけんしてください」
 コイントスではなく、ここでもじゃんけん。勝ったほうが前半に攻める方向を選び、負けたほうからのキックオフで試合は始められる。
 伊沢が勝って、どちらのゴールに攻めるか聞かれた。
「このままで」
 風が強いときは、先手必勝で試合の流れを引き寄せるべく、風下を選ぶところだが、そうでなければ、ぶっちゃけどちらでもいい。
「では、エルフシュリットさんのボールで試合を始めます。フェアプレーでお願いします」
「お願いしまーす」
 挨拶をすると、両チームはピッチに散らばった。このタイミングで円陣を組むチームはあったりなかったり。うちは基本的にないかな。相手もその模様。無駄にエネルギーは消費しない。エコロジー。
「キーパーいいですかぁ?」
 全員がポジションについたところで、主審が手を挙げて声をかけてきた。
 俺も手を挙げて、問題ない旨を伝える。主審は相手キーパーにも確認し、同じように返事が返される。
 ピィ〜。試合が始まった。試合開始のホイッスルも、気の抜けるような音だった。この主審、ホイッスルを吹くことから練習が必要だな。ほんの少し余計なことを考えてから、俺はピッチを見渡した。

トヨタカップ 第6回 ユベントス vs アルヘンチノス・ジュニアーズ [DVD]

前へ  次へ

inserted by FC2 system