第14話
「ま、でもほら、順位は少しでも上のほうがいいじゃない。しっかり勝ちにいかなきゃ」 唯華は、苦し紛れに言う。 「ああ、もちろんそのつもり。だから、ちょっとアップに付き合ってくれ」 俺は、レジャーシートのすぐそばに転がっていた、クロワッサンズのチームカラー、青色のサッカーボールを彼女のほうへ軽く蹴った。 これは唯華のボールだ。彼女自身は練習で一切ボールを蹴ろうとしないのに、自分のサッカーボールを持っている。ファッションのつもりなのだろうか。 「えー、他のメンバーとやってよ」 唯華は、俺がゴロでパスしたボールを手で拾い上げて言った。 「いいじゃねぇかよ、少しぐらい」 「服が汚れちゃうから嫌。わたしは見てるだけで十分満足だから」 「どケチ」 「そーよ、わたしはけちんぼよ。今さら気づいたの?」 「意地悪ばあさん」 「ばあさんは余計よ」 唯華は俺から顔を背ける。その仕種は少しかわいかった。 唯華に振られた俺は、野島に声をかけてパス練をする。少し体が温まってきたころに、試合が終わる。8対0。俺たちの優勝は、これで完全に消えた。 「お疲れ」 俺は、この試合で線審を担当していた伊沢と充に、半ば義務的な労いの言葉をかけた。 このリーグでは、審判はほかの参加チームがやることになっている。今終わった試合は、線審2人はクロワッサンズ、主審と予備審はこれから対戦するエルフシュリットが担当。そして俺たちの試合の審判は、さっきまで試合をやっていた黎明大学サッカー部と、彼らにボコボコにされてしまったビギナーラックスが担当する。 「どうも。でも荒れることもなく楽なゲームだったから、今日当番だったのは、ラッキーだったかもしれないですね」 伊沢は、上下長袖のジャージを脱いで、青一色のユニフォーム姿になりながらそう言った。 「試合まであと20分あります。ピッチに出てボール蹴りましょう」 伊沢は、チーム全体に呼びかける。それに応じて、クロワッサンズの面々はピッチへ入っていく。