第12話
「それにしても、結婚か……」 田川は、手元の招待に目を落としてしみじみといった。 「俺も正直、もっと先のことだと思ってたんだけど、いやぁ、わからんもんだね」 そう言って大石は笑う。心なしか、大人の余裕が垣間見えた。 「それじゃ俺、同期全員にこれ配ってこなきゃだから」 大石は招待状の束を手に、軽快な足取りでフロアを出ていく。風とともに去りぬ、だった。 他の社員とランチの予定があるという田川と別れ、一人でラーメンを啜ってから、自分の席へと戻る。 昼休み残り5分。そろそろ仕事モードに頭を切り替えなければならないところだが、大石結婚というニュースの余韻はなかなか抜けなかった。ヤフーで、結婚と平均年齢をキーワードに検索をかけ、どんぶらこっこ、どんぶらこっこ、と情報の大河を漂流する。 初婚の年齢は30代前半が多くなっている。よし、俺、全然問題なし。 それを確認したところで、チャイムが鳴る。昼休み終了。再び緊張のある静寂が訪れる。俺はノートPCに向かい合う。 担当していた機能の製造は一通り完了。次の担当分に取りかかる。これもスムーズに進み、夕方には8割ぐらい片づいてしまう。 久しぶりに、仕事で充実感を覚えた1日となった。 だから、家に帰ると調子に乗って筋トレなんかやってしまう。 腹筋、背筋、腕立てを50回。 え、少ない? いいじゃん、別に。プロじゃねぇんだから。